白兎と冷酷人間
□衝突した気持ち
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「や。いきなり居なくなるから驚いたんだけど。」
『……イルミさん。』
あの後、アジトから離れるようにこのビルに来た。そしてわざわざイルミさんがここに来たのは絶対何かある。だってこの人と仲良くないし、人を心配しなさそうだし。
「今失礼な事考えたでしょ。」
『ほんらほとはいれす!』
「何言ってんのかわからないんだけど。」
そりゃああなたがほっぺ引っ張るからでしょうに!
ほっぺを引っ張っている腕を掴めば、あの感情が読めない目でジッと見られた。
「なんか似てるね。あんたと黒兎って。」
『いたたたた…。…似て、ますか…。まあそうかもしれませんね、同じ一族の血が流れてますし。』
「…ねえ、何であんたはそいつを知ってんの?」
『…父からの話で…。』
「ふーん。あとさ、もし俺がそいつと会って逃げたらどうなるの?」
『どうなるって…。そんな前例なかったので何とも言えませんけど…。』
「けど、何?」
この人…あえて言わないでいた事を早く言えと言わんばかりだし。何だよ、空気が読めないのか。
『更に殺し合いがしたくなって、地の果てまで追いかけるんじゃないでしょうか?…イルミさんはご家族は居ますか?』
「居るけど。」
『なら尚更気を付けてください。きっとご家族も殺しかねない。』
そう言った途端、イルミさんからブワリと殺気を膨れ上がった。え、イルミさんって、すごく家族大事にしてる人だったのか。私、マズい事言った?
「よし、俺やっぱり黒兎を殺すよ。いいよね?」
『なぁ!?ちょ、ダメですってば!彼は死に恐怖なんてないんです!本当に危ないんです!』
「俺だって死ぬ事に恐怖はないよ?それにクロロ達もそいつの事諦めないだろうし。」
『っ…。』
やっぱり諦めてなかったか。確かにあの忠告を素直に聞くような人達ではないと思ってたけど…。
『(本当に危険なのに…。)とにかく、ダメです。私…クロロさんを説得してきます。』
「無理だと思うよ。」
『それでも頑張ってみるんです!ではまた会いましょう!イルミさん!』
ダッシュでその場から駆けていく私に、イルミさんも何時の間にか居なくなってた。
きっとクロロさんは興味で会ってみたいんだろう。特攻隊のみんなは戦ってみたいんだろうな。きっとフェイタンも…。
でも彼らは会ってはいけない。あの人が何の為に手当たり次第に殺戮をしているのかはわからないけど、危険過ぎる。
「よお!ルカやっと帰ってきたか!団長から聞いたぜ?」
『ウボォーさん…。』
広間に入った途端、ウボォーさんが嬉しそうに話し掛けてきたところから、もうこの広間に居る人達はみんな知ってるんだろう。スタスタとクロロさんの前に行けば、ゆっくりと本からこちらへ視線を移す。
『お願いです…。彼から手を引いてください。彼は私と同じ夜兎族です。』
「だったら尚更気になるだろう?」
『…気になるで近付いてはいけないんです…。私はなり損ないの夜兎ですが、彼は違うんですよ。』
「それは俺達がそいつより弱ぇって言いたいのか。」
今まで黙っていたフィンクスさんが睨みながら言ってきた言葉に唇を噛む。周りに居た特攻隊のみんなだってすごく睨んできてる。ヤバい、すごく怖い。睨みながら殺気まで飛んできてる。
でもここで嘘を吐いても意味がない。
『…わかりません…。』
わからないんだ。だって皆さんの力量も知らないし、彼の力量もはかりかねない。ただはっきり言える事は…
『私に簡単に勝てないと…彼には手も出ません。』
ポツリと呟くように言った言葉は言い終わると同時にナイフが飛んできた。言葉より先に手が出るなんて、もう慣れてしまったから悲しい事だ。
「ルカ殺せば問題ないね。」
『フェイタン…。そうですけど…私はあなた達から逃げる事はしましたけど、殺す事はしてませんよね?』
困ったように笑う私に、一瞬フェイタンの目が見開かれたと思ったら、次の瞬間にその場には居ない。私が咄嗟に退いた場所には地面にヒビが入っていて、着地した途端目の前に現れるフェイタン。
『アジトの中で暴れたら危ないですよ…?』
「なら外出るね。」
『そしたら私、死んじゃいます。』
傘で防いでいたフェイタンの剣を払いながら言えば、また襲いかかってくる剣に溜め息をつく。傘を地面に突き刺して、左手で剣を握りしめれば驚いたように目を丸くしていた。だけどすぐに睨むように目を細めてこっちを見てくる。
「何のつもりか。」
『今、剣が動きますか?余裕で動くのなら私に勝機はありません。』
僅かにしか動かない剣にフェイタンの殺気が更に上がった気がする。これ以上戦えば危険だ。フィンクスさん曰わく、フェイタンの念はキレた時に発動するらしいから見境なく攻撃されたらたまったもんじゃない。
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