ちゃいるど!!

□弱さと私
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「ここだ。」


そう行って止まった先には綺麗だったであろう美術館。今となっては、壁が壊れていたり扉や窓が破壊されていたりなど酷い有り様だった。もしこれが蜘蛛のみんなの仕業だったなら、初めて自分の目で襲撃後を見る事になる。テレビで見た事はあったが自分の目で見ると、やはり凄まじい。


『誰の仕業がはっきりしてないんですよね…?』

「ああ。警察も手が焼いてるみたいだな。徹底的に調べても見つからないそうだ。」


これは蜘蛛のみんなの確率が高いかもしれない。欲しいもの以外は盗まずにあり、邪魔する者は排除する。だが今回生き残りが居て、それは共通して黒髪の女性。それはきっとクロロに気まぐれ。それに証拠が掴めないのが何より彼らに戸籍がないから。
ああ、ここに彼らが居たんだ。だってさっきから、ここに花を置きに来る女の子や女性がマスコミに捕まり、言う言葉が確かな証拠だ。


「いきなり大理石の床の破壊できる程の怪力で…。」

「わ、私は身体がいきなり勝手に動き出して…!」


死体には首をねじ曲げたようなものや、首をチェーンソーみたいな速度で切ったような綺麗な切れ口のものまであったらしい。そして古書が丸ごと消えた。
口々に揃えて言うのが、人間業ではない。
もう彼らしか居ない。1つ1つが彼らの特徴を表している。
きっとここに居たのは、フェイタンさん、フィンクスさん、ウボォーさん、シャルさん、クロロが居たのは確か。そしてウボォーさんが居るという事とクロロが一緒に活動しているという事は、まだあの事件は起きる前だという事。
良かった、本当に良かった。その推測が間違えているかもしれないが、少なくともまだあの事件は起きていない。なら、また私はそれを防げるかもしれない。なら私はもっと強くならなきゃ。そう思いながら手をギュッと握りしめ、近くの瓦礫に触った。
そして立ち上がろうとした時、後ろの人にぶつかってしまった。


『あ…すみません。』

「え?あ、大丈夫ですよ。」


振り向いて謝れば、何故かドクリと心臓が跳ねる。私はこの人を知らないはずだ。なのに何故こんなにも握りしめた手は震えている?
目の前に居る彼女を凝視したまま固まる私に、相手は首を傾げた。


「あの?何かご用ですか?」

『いえ…あ、すみません。睨んでたわけではないんです。』

「そうですか。」


表情を変えずに淡々と返事をしていく彼女とは逆に、私の頭は混乱状態だ。そこでふと気付く。
この感覚はこの頃ジンでも時々あるもの。


『…怪我はしてませんか…?』

「大丈夫ですよ。」


勝てない相手に思う威圧感だ。きっと彼女はかなり強い念能力者。だけどジンよりは強くない。
いや、それだけではない。彼女が纏う空気、全てがまるで…。
微かに震える唇を開こうとすれば、いきなり腕を引っ張られて目を丸くする。引っ張られたままの私を彼女は表情を変えずに見てきていた。


「何やってるんだ…。ユナほどの念能力者なら相手の力量くらいわかるはずだろう…。」

『カイトさん…。』


彼女が見えなくなった時点で離された腕。カイトさんは表情を歪めて私を見てくる。怒ってるんではない、心配してくれているんだ。


「あいつの近くにもう1人強い念能力者が居たのに気付いていたか?」

『え…気付きませんでした…。』


どれほど私は油断していたんだろう。指摘されて初めて気付く自分の失態に返す言葉も見つからない。


「彼女は強い念能力者だが、…あれは裏の人間だ。」

『裏の…人間。』


その言葉に私は何に震えていたかはっきりわかった。そうだ、どこかクロロ達に似ていたんだ。あの仲間以外に対する態度や、探るような視線。なら彼女は…クロロ達の仲間なのかはわからない。でもどこかでクロロ達に会うのを恐れていた自分が居たんだ。
私の事なんて忘れたかのようにされてあんな態度をとられるのが。私は本当に愚かだ。まだ助けられるなんて思った直後にこの恐怖。嫌われてでも助けたい思う気持ちより、助けてみんなと一緒に居たいと思う気持ちが遥かに強い。
私は、弱い。どうしたら強くなれるんだ。どうすればいいんだ。


『カイトさん…私、強く、なりたいです…。』

「……。」

『もっと、早く、強く、なりたいです…。』


吐き出すように言った言葉をカイトさんはどう受け取ったのかはわからない。でも頭を優しく撫でてくれる手に泣きそうになった。
もっと、強く、なりたい。










「あー居た居た。ほら戻るよ。」

「うん…。」

「?どうしたの、何か気になる事でもあった?」

「んー…気になるというより、何か不思議な感覚。今ね、女の子とぶつかったんだけど結構強い念能力者だった。」

「……何かされた?」

「ううん。…ただ、私の顔ジッと見られただけ。……あ、わかった。」

「何が?」

「どこか団長に似てるんだ。」

「へー、まずシズクが忘れてない事が珍しいよ。」

「シャルの事は忘れるかもね。」

「冗談に聞こえないんだけど…。」


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