ちゃいるど!!

□二度目と私
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「もう時期したら行くぞ。」

『はい、お父様。』


笑顔を貼り付けて言えば、パタンと閉まる自室の扉。出て行った途端嘘くさい笑顔を止め、溜め息をつきながら1人では大きすぎるベッドに寝転がる。あれから私はただの一般人だ。
そして何も抗わず、ただの親の言いなりで今日はお見合いだ。抗ったところで何が変わるのか。変わったとしても周囲が軽蔑の目になるくらい。
結局私は肝心な所は何にも変わってないのだ。


「やっほ、良かったまだ居たんだね。」

『…由宇くらいよ。窓から侵入してくる規格外な奴は。ここ、3階。』

「てかまた部屋変わっててここまで来るのが大変だったんだけど。」

『…なかなか見つからない部屋なのによく見つけてきたね。規格外過ぎて呆れる。』

「どーもっ。」


スタンと窓から降りて部屋に入ってくる由宇は真剣な表情へ変わる。言いたい事は簡単に予想出来る。


『もう仕方ないの。相手は大企業の息子で凄腕の医者。お母様の会社も更に大きくなるし、お父様の病院の跡継ぎも「それでいいの?」…どういう事。』

「自分自身の意志は?本当は嫌なんじゃないの?」

『っ…。…そんなの…由宇にはわからない…!私はこの家のたった1人の子供!由宇は3人目!あなたみたいに自由でいられないの!!』


まくしたてるように言った言葉に静まり返る部屋。私は何をやっているんだ。由宇は全く関係ない。ただの八つ当たり。


『ごめん…。』

「私さ…、ある時期3人目だから何も期待されない。親は私の事を見てくれない、って嘆いてた時あったよね?」

『うん…。』

「今は私は全く気にしてないよ。大好きな人も出来て、兄弟とも仲良くて、大事な親友も居る。」


俯いていた私の手を握る由宇は余りにも眩しい笑顔だった。いつもこんな私を救ってくれたのはこの笑顔。そしてずっと羨ましくてクロロとは違う、人を引きつける力があるこの性格。


「クロロ=ルシルフル。」

『!!』

「幻影旅団は   にとって大事、なんだよね?」

『な…んで…。』

「親友の乏しい表情があんなに変わるんだもん。特にクロロの話の時なんてさ。」

『由宇…何を…』

「驚くのはわかるよ。でも1つだけ教えて。   が会いたくて、愛している人は誰?」


ジッと見つめてくる瞳は吸い込まれそうで逸らせない。そして嘘がつけないもの。そういえば彼の瞳もそうだった。あの瞳、仕草、声、全てに私は魅了されて何時の間にか好きになっていた。
思い出したら目頭が熱くなり、頬を伝う涙。それを見た由宇は優しく笑う。


『私の…好きな…人は…』

「うん、好きな人は?」

『ク…ロロ…。クロロだよ…!』


会いたくて会いたくて会いたくて、思い焦がれて泣く夜は沢山あった。
ペンダントを捨てようとしても、震える手がそれを止める。夢で見れば、覚めなければよかったと思う事もあった。
言葉にしてしまえば、溢れるような気持ちに私は止める術を知らない。こんな無様に泣いたのは何時ぶりだろう。


「そっか…。会いたいよね…?」


何度も頷けば、由宇は自分のしていたネックレスを外して私に渡す。
綺麗はエメラルド色の石はどこか不思議な感じだ。


『これは…?』

「私、中学生の時くらいに一回行方不明になったの覚えてる?」

『当たり前…じゃない。どれだけ心配したか…。』

「ごめんね?その時実は私この世界に居なかった。」

『え…?』

「ねえ、よく聞いて。これは   が望んでいるクロロの世界に行けるものなんだ。だけどこれは一回使ったらもう一生使えないただの石。この石には念が仕掛けられているんだ。」

『……。』

「選んで。この世界とあっちの世界、どちらで一生を過ごす…?」


真剣な表情の由宇に私は手に乗っかっている石を見つめる。もう答えは決まっているんだ。だけど私は由宇を置いていっていいのか?


「私の事は気にしたら怒るからね。私は親友に幸せになってほしいんだ。」

『……。由宇、ごめんなさい。』

「そっか…。気にしないで。私はマイダーリンに慰めてもらうから!」


笑顔で言う由宇の目尻の涙が光った。


『ありがとう、ずっと大好きだよ。』

「私も。あ、あっちに着く場所にはたぶんボサボサで身なりが酷い男が居ると思うから、そいつに私の事話せばわかってくれるはず。」

『…どんな奴よ。』

「いい加減な奴。だけど私を今の私に変えてくれた恩人。そいつに私の事話してやって。それで私は今では幸せ者です!って伝えてくれない?」

『うん、わかった。……由宇。』

「お別れは言わないでね!…大好きだよ。幸せになってね。」

『由宇こそ幸せになって。』


涙を流しながら笑顔で頷く由宇に、私も笑顔になる。由宇が目を閉じた後に眩い光が私を包む。ソッと目を閉じれば、由宇の気配が消えた。


「私の親友を頼んだよ…ジン。」


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