ちゃいるど!!
□別れと私
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「っ…君の能力は本当に未知数だね…。」
『ありがとうございます。』
「その傷は蜘蛛の奴にやられたのかな?やっぱりもう蜘蛛『関係ない。』…は?」
『蜘蛛に戻れないかなんて私には関係ない。』
「な!?」
ゆっくり近付けば、驚いた表情をしていたディオンは舌打ちしながら近くにあったナイフを構える。だけど私が付けた傷が痛むのか、眉をしかめて私を忌々しげに睨んできた。
「お前の望みは旅団の記憶を元に戻すことだろ?なら戻せば俺は関係ないんじゃないか?」
『…確かに旅団としては関係なくなるとしても私自身は関係あるの。私を助けてくれた人を殺したあなたに対しての恨みを晴らすために。』
「そんなのの為に命を捨てるのか?」
『そんなのと言うあなたにどんなに説明しても私の気持ちなんて理解は到底できないでしょうね。そうやって人の大事なものを奪ってしまうんだから。』
なんの笑みかはもうわからないものを浮かべながらナイフを構えれば、ディオンは舌打ちした後に何かのボタンを押す。すると押した途端後ろの窓が爆発し、身体が吹っ飛び壁に叩きつけられた。
狂ったように笑うディオンは私が壁に叩きつけられたのを見て、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「俺がなんにも罠かけてないと思ったのかよ!!つめが甘いなあ…」
『つめが甘いのはそっち…だよ。』
グサッと音と共にディオンの手が不自然なところで止まり、目を見開いて私を見てくる。近づいてきたディオンの胸には私が持っているナイフが深々と刺さっていて、まだ動いてる心臓の振動が聞こえてきそうな気さえする。
そしてディオンの崩れ落ちる音と共に、力が入らない足を壁で支えながら立ち上がって異変に気付く。
『身体が…元に…』
久しぶりの視界の高さに少し驚いて両手を見つめれば、両手越しに見えるディオンと目があった。恐怖、憎しみ、苦痛、恨み、そんな感情がディオンの瞳から伝わってくる気がして、そこで気づく。
私はこれから何を糧にして生きていけばいい?
私は何の為に生きていたの?そうだ、私は…
(クロロの傍に居るって…ついて行くって…)
それさえ捨てて今の私が居て、ここで今も生きている。きっとディオンはもう直死ぬ。
なら私は自分の恨みを晴らしたけれど、本当に蜘蛛を守れたのか?殺すことでしかみんなを守れなかったのだろうか?いや、そんなことない。
―正式な仲間とただの団長さんのお気に入り、どちらを信じるか考えてね
私はディオンの言葉を否定出来ない自分がいた。結局私はみんなを信じれなかったんだ。自分しか信じれなかった弱さと、蜘蛛の為といって自分の恨みと恐怖を取り除くためにしか行動出来なかった。全くもって愚かで弱い。
『っ…。』
この涙はなんなんだろう。自分の愚かな行動に対してのものか、みんなと一緒に居れる勇気がない自分に対してのものか。どちらにせよ、自分の為。一般人の私にはお似合いの思考かもしれない。こうやって先ほどの爆発で割れた窓から落ちる勇気もなく、ただ高い景色を眺める私。最初から死ぬ勇気なんてなかったんじゃないか。どうやってこれから生きていけばいい?そんなの前の世界のように生きていけばいいんだ。だけどこの世界でそれが私に出来るのだろうか?前の世界のように自分の大切な人たち、将来、存在、居場所。そのために生きていけばいいのに、この世界でそれに当てはまるものは全部、全部、あの人たちが居るんだ。
俯いて落ちていくのは自分の涙。全く馬鹿な私だ。
『馬鹿、だなあ…』
「そうだな。」
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