ちゃいるど!!
□宴会と私
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『ん…。』
外から入る朝日で目を覚ました私はゆるゆると目を開ければ、目の前のクロロの寝顔に叫びそうになる。
だけど段々と冷静になる頭で昨日の事を思い出して納得した。
昨日私は初めて人を殺した。あの恐怖とも言える感情は一生忘れないだろう。そして初めて私がクロロに心を開いた日でもある。
きっとクロロが居なければ、今こんな穏やかな気持ちでいられない。
『ありがとう…クロロ…。』
「気にするな。」
返ってくるとは思っていなかった返事に目を丸くすれば、こちらを見ながらのどを鳴らして笑うクロロ。
『…何時から起きてたの。』
「今さっきだ。随分表情が軟らかくなったユナ。」
『っ!か、顔洗ってくる!!』
洗面所に向かう私を面白そうに笑っているクロロがとても悔しく思えた。
そして服に着替えてクロロの部屋に行けばまるで待っていてくれたかのように、クシャリと私の頭を撫でた後に広間に向かう。私はそんなクロロに対して緩む口を引き締めるのに必死だ。
広間では沢山の盗んできたものと、沢山のお酒と料理に昨日の面々が居た。朝からお酒を飲んでいる事に苦笑いしながら近付けば、ウボォーさんが笑顔で手を振ってくれたので振り返す。
「おぉ!ユナ!あー…た、体調は大丈夫か…?」
『はい、大丈夫ですよ!』
笑顔で言えば、嬉しそうに私の両脇を抱き上げて高い高いをするので少し驚く。なんせ彼は2メートルを軽く超えているのだから、こんな高い景色なんかそうそう見れない。
「ユナ驚いてんじゃん!」
「お?あぁ、すまねぇ。」
『私は大丈夫ですよ。むしろこんな高い景色見慣れないもので貴重な体験です。』
非難の声をあげたシャルさんに笑いながら言うとウボォーさんはまた嬉しそうに笑って、私を片手に乗せながらシャルさんまで掴む。シャルさんはため息をつきながらも私と目が合うと優しい表情で頭をポンポンと撫でてくれた。
「でもユナが元気そうで良かった。」
『心配かけてすみません…。』
「そういう時はお礼を言ってくれると嬉しいな。」
ニコリと笑うシャルさんに私は周りを見る。みんなあまり表情が変わらない方だけど、短い間でどれだけ優しい人達か知っている。だから今だってこうやって私を見てくれているこの人達に顔が綻ぶ。
『皆さん…本当にありがとうございます。クロロもありがとう。』
笑顔で返事を返してくれたり、照れていたり、目を細めたり、みんなそれぞれ反応は違うけど嫌な気分ではない事は確か。私はこの人達と出会って色々といい意味で変わった気がする。
「ユナ、お前に渡したいものがある。」
クロロの言葉に首を傾げながらも、降ろしてくれたウボォーさんからクロロの元へ向かえば渡されたのは赤い箱。
『これは?』
「留守番のご褒美だ。職人に作らせたものだ。」
『…脅して?』
「そうすればお前はいらないと言うだろう。」
ご名答と笑って言えば、マチさんは、団長もユナには適わないね、なんて茶化してみんなは笑い出す。
そして赤い箱を開けてみれば、アンティークゴールドのロケットペンダント。ロケットペンダントの装飾は逆さ十字に真ん中に赤い石。
「さすがに刺青を入れるわけにもいかないし、蜘蛛のアクセサリーもどうかと思ってな。」
『ありがとう…。すごく、大事にする…!』
嬉しすぎて涙が出そうになるのを堪えながらお礼を言えば、クロロはもう1つある、と言った。
そして渡されたのは……鏡?
「あ!それユナにあげるつもりだったんだね。」
「最初からそのつもりだ。」
納得するシャルさんに疑問をもちながら鏡を見れば、何か念らしきものがかけられている事に気付く。パッとクロロを見れば意味深な笑みを浮かべていた。
「ユナの予想通り、それは念がかけられている。だが害はない。その鏡をジッと見つめてみろ。」
『?なんで?』
「それは鏡を見ればわかるはずだ。」
答えになっていないものを返されて、どうするべきか考える。シャルさんを見ても、まるで早く見てみろと言わんばかりに笑顔だ。他の人も興味があるみたいで、こちらを見てくるが鏡の正体を教えてくれるわけではないみたいだ。
『……。わかりました。鏡を見ればいいんですよね?』
「正確に言えば鏡に映る自分だ。」
クロロの発言に溜め息をつきながらも渋々鏡に映る自分を見る。もう見慣れた子供の顔の自分。だけどこんなナルシーのように長時間自分の顔を見る事なんてなくて、気まずさと恥ずかしさで目をそらしそうになる。
だけど次の瞬間、心臓がドクンと脈打つ。鏡の持つ手が震える。
『な…』
鏡に映る自分は
『んで…。』
前の世界の私。
1年近く見なかった顔。今より大人で、でも1年前の私はこんな表情が豊かじゃない。
これは今の自分なのか…?
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