ちゃいるど!!

□瞬間と私
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朝食をカイトさんと食べながら、昨日調べた事を話す。すると、意外な返答が返ってきて反応が遅れた。


「そのインターネットで調べた話なら本当だな。たしか隣町の美術館だ。」

『本当…ですか…?』


コクリと頷くカイトさんに私は期待と不安が膨らんだ。もしかしたら、そこに蜘蛛の誰かが行ったところで、何かしら手がかりがあるかもしれない。だがそれとはまた別に、かなりの低確率だが誰かに会ってしまったら…?私はどうなるのだろう。
黙ったままの私にカイトさんは心配そうな表情で声をかけてくれた。


「気になるのか?」

『…はい。』

「なら今日俺はそこが通り道だ。一緒に行かないか?」

『いいんですか…?』

「あぁ。遠慮するな。」


なら甘えさせてもらおう。私が頷けば「決まりだな」と言って笑ってくれた。
そして朝食を食べた後に自室に戻って荷物をまとめる。ロビーで待ち合わせしている為、チェックアウトして迎えばカイトさんはソファに座っていた。


『お待たせしました。』

「いや、大丈夫だ。よし、行こう。」


隣町と言っても結構な距離があるので電車を使う事になった。あれ、私ってこっちの世界で一回も電車に乗った事がないんじゃないか?
電車の中を目だけで見回す私に、カイトさんは席に座りながら笑ってきた。


「電車が珍しいのか?」

『珍しくはないですけど、こちらの世界で電車を乗るのは初めてでして…。』

「前にこっちの世界に来た時もか?」

『まあ…そうですね…。乗り物すら、ちゃんと無さそうでしたし。』

「…どういう事だ?」

『あ…私、流星街に居たんです。』


サラリと言った私の言葉にカイトさんは驚いたような表情でこちらを見てくる。…やはり流星街は珍しいところなんだろう。あそこは人がちゃんと住めるのはかなり難しいだろうから。


「よく生きていたな…。」

『何度も死にそうになりましたよ。…でもそのたびにあの人達が助けてくれた…。』

「ユナが探している奴らか?」

『はい。とても強くて、私の命の恩人ですよ。あの人達が居なかったら、私今頃とっくに死んでましたし。』


カイトさんは「そうか」だけ言って後は何も聞いてこなかった。カイトさんはきっと頭の回転が早い人だ。だから私の話を聞いて、これ以上聞いてはいけないと思ったんだろう。あの流星街に住んでいて、誰か他人を助ける程の余裕がある者。つまりそれは強さの指数を現すようなものだ。そしてそれが複数で集団でいる。もしかしたらカイトさんは私が探す人物達が誰なのかわかっているのかもしれない。こうやって私が襲われた美術館に向かっているのが確信にもなる。それを言わないのは優しさか、それとも由宇の友達だからか。きっと後者が高い。


『カイトさん…。』

「なんだ?」


ならそんなに由宇を大切に思ってくれてるカイトさんは今、どんな気持ちなんだろう。由宇を騙してここに来たのかと思っているのか


『由宇は…私がここに来た意味も、誰に会いたいかも、全て知っていてここに来させてくれたんですよ。由宇の性格を知っているなら、嘘が突き通せない事はご存知でしょう?』

「!…そうだな。」


柔らかく笑うカイトさんは、私越しに由宇を見ているような気さえした。彼にとって由宇はどんな存在だったのか、私にはわからない。だけど今あの由宇が居るのはカイトさんのおかげな気がする。
私も笑い返して電車の窓へと視線を移す。とても穏やかな景色が広がっていた。


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