ちゃいるど!!

□約束と私
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セシルは幻影旅団を恨んでいないと言った。だけど被害者はセシルだけでない。星の数程、幻影旅団によっての被害者は居るはずだ。セシルみたいな子は本当に珍しい。大半、もしかしたらセシル以外の被害者は幻影旅団に恨みを持っているではないか?でも、それでも私は旅団のみんなが好きだ。こんな私は…


「ユナさん?」

『あ、セシル。お風呂とても気持ち良かったよ。あとここの庭園って…。』


目の前に広がる色とりどりの花。月に照らされていてとても神秘的だ。
セシルはおもむろに地面の砂を掴んで、息を吹きかける。するとフワリとそれは花びらに変わって、私は目を丸くする。


『それはセシルの念能力…?』

「はい。私の能力は花に変えたり、枯れたものなどにもう一度生命の息吹きを吹きかえられせたりします。ここは本当は最初焼け野原だったんですよ。何か忍の皆さんが他の忍と争いを起こしたみたいで…。」

『それをセシルが?』

「はい、成長を早めたのは申し訳なかったんですが、余りにも森の動物が可哀想で…。1年半大変でした。」


苦笑いで言うセシルの言葉にふと思い出す。お風呂に入る為に下町に降りた時に聞こえてきた話。戦ばかりで焼け野原になってしまったあの山が、たった1年近くで元に戻るどころか、色々なものが収穫出来たりなどで豊作になったとか。そこから名付けられた山の名前は…


『恵比寿の山ね…。なんか納得いく。』

「えびす…?何ですか?」

『日本…ジャポンでは七福神という七福の神の1つとされてるの。それで恵比寿は商業・漁業・海上の守り神で田の神としても信仰されていた。その恵比寿に因んで、この山が恵比寿の山って言われているみたい。』

「なんかユナさんってすごい博識ですね…。」

『ただ本を読んだだけの知識だよ。セシルはそうするとこの山の恵比寿ね。』

「わ、私そんな神様のような事してませんよ!?」


慌てるセシルに笑えば、視線を彷徨わせて困った表情をした。ただ人が書いたものを読んで知識を沢山持っている私と、何の得も考えずに1年ずっと森を戻す為に頑張ったセシル。どちらが偉いのだろう。私はセシルのようにはなれない。自分が住みにくいなら住む場所を変える。変える場所がないならどうなるんだろう。


「でも私はずるいですよ…。私は怖くて何時も逃げています。」

『それは…。』


セシルが懐から出したのは香水のような容器。中身には鮮やかな黄緑色の液体が入っていた。


「これはある草を元に作った香水です。その草はここの山には生えていない、私が途中で見つけた種をここに植えたんですよ。」

『その草は…?』

「忘却草です。私は耐性があるので効かないですけど。ごめんなさい、今まで言わなくて。」


ならばあの時セシルに飲ませた忘却草は効いていなかったのか。何となく申し訳ない。そんな想いがわかったのかセシルは慌てた表情をする。


「でもあの時ユナさんが居なければ私は大変な事になってましたし!」

『…セシルは前から忍の里を知ってたの?もしそうなら何故近付いたの?』

「あのですね、あの忘却草、伊賀の方には効かないんですよ。ですが他の忍の方には効くんです。なので、伊賀の方の里にその忘却草を植えようと思いまして…。前に動物の居る方にも植えたんです。その時ジンさんが居なかったら大変でした。」


ああ、あのジンが言っていた事か。あの話にはこんな裏があったとは思ってもいなかった。


『どうしてセシルはそんな事をするの?』


別に自分の行動範囲に植えればいいものを、何故危険を冒してまでそんな事をするんだ。そんな事をして自分に何の得があるというんだ。
するとセシルは一瞬悲しそうな表情をした後に、笑顔になる。


「もう争いや奪い合いは見たくないんです…。」


ああ、そうだ。彼女と私は全く違う。こうも自分の考えが愚かに見えてくる。そんな愚かな私はセシルから見たらどんな人物になるんだろうか。


『もし…もし私が…蜘蛛と繋がりがあったら…どうする?』


いった瞬間、セシルの目が大きく開かれた。そして同時に赤くなる瞳。
自分で言った言葉なのに酷く痛む心。


「な…なんで…私…幻影、旅団を…蜘蛛なんて…。」

『ごめんね。』


何に対しての謝罪だろうか。そっとセシルに伸ばした手は、ビクリと肩を震わすセシルに届かず中途半端なところで止まる。私は、セシルに何がしたかったんだろう。


『本当に、ごめんなさい…。』


ポツリと呟いた言葉と共に私はセシルの家へ入った。私は彼女をどうしたかったんだろうか。


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