ちゃいるど!!

□記憶と私
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流れる景色に私は木の枝を伝って山を登っていく。私は3日に1回は山を降りてお風呂に入りに行くのが習慣になった。川水は確かに綺麗だけど、やはりお風呂には入りたい。ジンは別に気にしてないみたいで、私の話をよくわからないような表情をしていたのは仕方ない。だからジンは女にモテないんだ。

ヒョイヒョイと登っていける自分に、汗どころか呼吸が乱れないところから成長したなぁと感じる。最初はお風呂を入った意味なんてないんじゃないかというほど汗だくで帰ってきたものだ。


『あれって…。』


ピタリと止まった場所には戦った跡があって、木などに出来た傷を見る限り忍とどこか剣士だろうか。忍とは時々遭遇する。最初は攻撃を仕掛けてきたりで大変だったが、今では攻撃はかけてこないし時々すれ違うくらい。まあ面倒事には巻き込まれたくない。即刻ここから退散…


ガサガサ

『!…大丈夫ですか!?』


草むらから出てきたのは忍でも剣士でも獣でもなく、可愛らしい女の子。だが駆け寄って後悔。傷や二刀流の剣からしてここで戦ってた人物だ。すると直後に木の上から感じる複数の気配に溜め息。さっさとこの場から離れればよかった。


「そいつを渡せ。」

『…彼女は何をしたんですか…。』


先ほど転がるように倒れた女の子は確かに怯えきった表情をしていた。そして背中に出来た掠り傷からして、戦うのではなく逃げていたと想定できる。今更はいどうぞ、と渡せるほど冷酷でもない。


「お前には関係ない。」

『伊賀忍の書物でも盗んだんですか?それとも間者ですか?私は残念ながら彼女に話しかけてしまったので情があるんですよ。ひかないなら…実力行使といきますけど?』


スッとナイフを抜く私に忍達は警戒態勢になる。だけど、リーダーらしき忍がそれを止める。


「そいつは我らの領地に踏み込んだ。」

『ならそれを他言無用にすれば構わないんですか?ですがあなた達の領地はどこからか分かり難いのであなた達にも非はありますけど。』

「…それが出来るのか?」

『忘却草。それをこの間見つけました。確か、今飲めば1時間前の記憶まで忘れられるんですよね?それでいいですか?』

「本物なら構わない。」


用心深い奴だ、と内心思いながらバックの中から粉末状にした忘却草を取り出して、気絶している女の子の口に入れて水も入れて強制的飲ませる。そして残りの忘却草が入っている袋を忍に投げ渡す。


「…確かに本物だ。」

『なら交渉成立ですね。私は興味本位で作っただけなので、それあげます。』


すると一瞬にして消える忍達に溜め息をこぼしながら、仕方なく女の子をおぶって山を登る。ジンはどんな反応をするのだろうか。まず何故こんな女の子が山に居るんだ。それにさっき目が合った時、気のせいでなければ…


「おー、帰って…何背負ってんだ。」

『途中で拾いました。』

「拾ったっておい……ん?ユナ、そいつの顔見せてみろ。」


はい、と見せればジンはかなり驚いた表情をする。予想以上に驚いた表情を見れたような…。


「ユナ、大手柄だな。」

『は?何でですか。』

「探してた奴、こいつだ。」


その言葉に次は私が驚く。つまり彼女は山に住んでいる放浪癖がある人物で絶滅危惧種という事か。あの場をさっさと離れなくてよかった。離れていたら……考えるのはやめよう。


「またドジやったか…。」

『また?』

「この間は山の主の縄張りに入って大怪我してたぜ。」

『……彼女、山に住むにはあまり向いてないと思いますよ。今日は伊賀忍の領地入ったようで追い回されてました。』

「ならお前からも言ってやってくれよ。」

『遠慮しておきます。』

「何いきなり謙虚になってんだよ。」


これ以上面倒事には巻き込まれたくない。そんなやり取りを繰り返していれば、女の子はゆっくりと目を開いて寝ぼけ眼で辺りを見回した。


「おい起きろ。」

「あれ…?ジンさん…?それに…、!」


私の顔を見た途端驚いたのか目を丸くしてジンの後ろに隠れてしまった。まるで恩を仇で返された気分に少し顔をしかめる。…いや、そういえば彼女は忘却草のせいでさっきの事は忘れているんだ。なら私の事も忘れていて仕方ないだろう。


「あー…、こいつちょっと人間恐怖症なんだよ。」

『ちょっとどころではなく、かなり怯えてますけど。』

「あ、あの…ジンさんのお知り合いですか…?」
「こいつはユナ。俺の弟子だな。」

『初めまして、ユナと言います。』


ニコッと笑えば、ホッとしたような表情でジンの後ろから出てきた彼女は小動物のようだ。これが守ってあげたい女の子、というものなのだろうか。


「始めまして…セシルと言います。」

「とにかく、お前の家に一旦行って怪我の手当てだ。」


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