ちゃいるど!!

□消失と彼女
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ユナが何処かへ行った。そう電話してきたシャルの声は余りにも情けない声。恐らくアジトではかなり思い空気が流れているだろう。それ程あいつ、ユナはシャル達に気に入られていた事を示す。

何故あいつがディーラを殺そうとしたかなんてわからない。ユナは俺達に怪しい行動どころか、俺達を慕っていたように見えた。
だが今そんな事を考えても何も解決しない。ユナが向かった場所は高い確率でディーラの所だろう。ディーラを助けに行くのではなく、俺は裏切り者を始末するためにディーラの泊まっているホテルに向かった。
ホテルに着く直前に爆発音と共に、窓ガラスが割れている部屋が見えた。恐らくあそこがディーラの部屋だろう。そしてあの場所にユナが居る。
一般人が悲鳴をあげながら非難しようとしているのと逆方向へ進んでいく。途中、引き止めようとした従業員は面倒なので殺しておいた。
そして部屋に入れば、まだ辛うじて生きているディーラと荒れ果てた部屋。そしてその部屋の窓際に立つ女。真っ黒な長い髪と服、身体についた血が何故か儚げに見えた。そしてこの女は恐らく…ユナだ。
ゆっくりと近付く俺に気付かずに窓の外を眺めている。


『馬鹿、だな…。』

「そうだな。」


ポツリと呟いた言葉に返事をすれば驚いたような表情で振り向いてくる。だが次の瞬間、俺が刺した事を認識すると違う意味で驚いていた。


『ク…ロロ…。』


呟くように俺の名前を呼ぶ声は子供らしい高い声ではなく、少し落ち着いた声。だがユナの声には変わらない。ドサリ、と床に倒れるのを見れば流れている涙に疑問を覚える。何故泣いている。死への恐怖によるものか?


『クロロ…。』


それでもまだ俺の名前を呼ぶユナに眉をしかめた時だ。
ユナが目をつむった直後、ディオンが死んだと同時に軽い目眩が襲う。
そして今まで不自然に俺の記憶に居たディーラが消えていく。霧がかかっていたようなものが晴れていくような感覚。
そうだ、ディーラは半年前に旅団に入り、あまりにもディーラの情報がないので様子を見ていた。そして俺は…宴会の後に念をかけられた。

記憶を整理していき、そこで倒れているユナが視界に入る。
しゃがんで頬に触れば、段々と冷たくなっている事に気付く。ソッと目を開くユナに映る自分は酷く驚いた表情をしていた。


「ユナ…。」

『私、だって…気付いて、くれたんだね…。』


名前を呼べば嬉しそうに涙を流す。
何故お前はそんな顔をしていられる。


『蜘蛛、を狙って、る…奴らがいるよ…。』

「もう喋るな。」


何故


『魔眼の…ディオン…。そいつが、居る…とこ。』

「ユナ。」


何故お前は


『最後、くらい…聞いてよ。』


俺を責めないんだ。
抱き寄せたユナの身体は震えているのを感じ、更に腕に力を込める。
弱々しくも優しく笑うユナ。


『好き…。クロロ、好き、だよ…。』


囁かれたのは今まで腐る程に聞き慣れた言葉。だが何故か心に響くのは、自分が死に際なのにそんな言葉を殺そうとした相手に言うからだろうか。それとも…


『ありがとう…。ごめんね…。』


ポタリとユナの頬に落ちた雫に自分のものだとわかる。あぁそうか、こいつだから泣けるのか。こいつが言う言葉だから心に響いたのか。
何故今頃になって気付く。気付かずにいれたままだったらこんな感情、知らなくてもよかっただろう。


『ねえ、クロロ…。』

「ああ、なんだ。」

『名前…呼んで…?』


力なく笑うユナの目はもうどこか視点があっていない。段々と冷たくなっている身体。
それがこれから何が待ち受けているかなんて、簡単に想像出来るはずのものがどこかで否定をするようにユナの手を握る。俺はこいつにそんな執着をしていたのか。だがそれも今更の話だ。


「ユナ。何度でも呼んでやる。」

『あり…がと…。』


ホッとしたような表情で言われた言葉共に使われた念。真っ暗になった視界がいきなり明るくなり、一瞬目をつむれば見知った気配と見慣れた場所へと変わっていた。


「団長!?ねえ、ユナは!?」


珍しく切羽詰まったような表情のシャルがいきなり問い掛けてきた。その他の奴らもどこか悔しそうな表情だ。恐らく旅団の奴らは皆ディーラの念にかかっていただろう。可笑しいくらい笑える話だ。


「あいつは…ディーラの所に居た。ディーラ…いや、ディオンは死んだ。」

「そう…で、ユナは…?」

「俺が…殺した。」


ピタリと止まるシャルの目は大きく見開かれている。だがすぐに俯きながらも「そっか…。」と呟いた。すると先程から黙っていたマチが鋭い目つきでこちらを見てくる。


「でもここに団長が居るのはユナの念じゃないの?」

「そうだな。」

「…ならユナは生きてたんだよね?」

「俺を此処に飛ばした時にはな…。」


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