ちゃいるど!!

□決意と私
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「で、こんな夜にアジトから離れた所に呼び出してどうしたの?」

『…ちゃんと1人で来るなんて驚きね。』

「だって約束じゃないか。」


笑いながら言う言葉は白々しく、私は目を細める。ここはアジトから離れた場所で、だけど流星街には変わらない。アジトの周りは人もゴミも少ないからあまり臭いは気にならないが、ここはその臭いが強烈。慣れてしまった私とは違い、ディオンは鼻を摘まんでしかめっ面だ。ざまあみろ。


『随分みんなの機嫌を損ねてくれたね。』

「まさかあんなに毒を浴びて、昨日の今日で動き回っているなんて思いもしなかったよ。次はもっと量を多くするべきかな。」

『安心して、あなたに次なんてないから。』


言葉と同時に動いた私は一気にディオンの懐に入り込むが、間一髪でナイフをディオンのナイフで止められる。


「っ…さすが、旅団が師匠なだけあるね…。」

『体術、剣術、暗殺、私は色々あの人達に教えてもらったからね。そして…』


ソッとディオンのナイフを触れば、パッと消えてさっきまで私が居た場所に音をたてて落ちる。いきなり消えたナイフに驚いているディオンは、私のナイフが少し掠っただけでギリギリ避けた。


『もちろん念についても。』

「あの時の非力な君じゃないんだね、   。」

『私はユナ。こちらの世界でもらったかけがえのない名前だよ。だからこの世界でその名前はいらない。』


地面を蹴って回し蹴りをしようとする私にディオンも攻撃しようとするが、その場に私は居なくてディオンはまた目を見開く。当然だ、私は誰にもまだ教えてない念でディオンの後ろに居るのだから。そして勢いよく蹴ったディオンは壁にぶち当たる。


「ぐあっ!」

『魔眼のディオン。操作系。10秒間目を合わせれば大抵のことは操れる。記憶操作とか難しいものは、その目を合わせながら1分間会話して1回接触、よね?』

「っ…!」

『シャルさんみたいに体術が強いのかと思えば、予想外で驚いた。あなたの敗因は私の情報不足。旅団のみんなが私の全てを知っていると思ったら大間違いだよ。さて…』


地面に倒れているディオンの背中に乗り、両腕を締め上げる。さっきの蹴りで肋骨でもやられたのか、口から血を吐いているのが目に入った。きっとヒソカさんだったら、すぐに殺しちゃってるんだろう。


『何故私の事を知ってたの?答えなければ、爪剥ぐからね。』

「最初に、ここに来た、時に…俺らんとこに、居たからだ…!」

『私はあなた達によってこの世界に連れてこられたの?』

「違えよ…!いきなり、現れたんだ…!」

『身体と記憶を取り戻すには?』

「俺が、持っている箱を、開ければ、半日もしない内に戻る…!」


服の中を探せば古びた手のひらサイズの箱。仕組みがどうとかはもう聞くのが面倒なので関係ない。恐る恐る開ければ、一瞬の眩い光に驚いて片手で抑えていたディオンの腕が変な音をたてた。


『さてあなたの念は死ねば強くなるわけでなく、念が解ける方法の1つと聞く。』

「っ…。……ユナちゃん。俺が何でこんな大人しくやられているかわかる?」

『…弱いから反撃出来ないの間違いじゃない?』


グッと力を込めれば、苦しそうな声をあげながらも小さく笑うディオンに眉をしかめる。彼に何か策があるというのか?だが私は人の心が読めるなんて大それた事は出来ない。ならば策が発動する前に殺すだけ。
微かにナイフの持つ手が震えているのを見て、もう一度ギュッと握りしめる。


『策があるならば発動する前に殺すだけ。…さようなら。』


自分が振り下ろすナイフがスローモーションに見え、目を瞑りたくなる。私は今から自分の意思で人を殺す。
刹那、そんな覚悟をした自分のナイフはギリギリのところで止まった。いや、止められた。止めているものは余りにも見慣れた刀。だってこの刀は私に剣術を教えてくれた刀で…


「ユナ…お前ぇ、何やってんだ…。」


ノブナガさんのものなんだから。

聞き慣れたノブナガさんの声。そして何時も気配を消すのが上手い、2人の気配が後ろから。何時もと違うのはこの殺気が私に向けられていること。
私は目を丸くしてノブナガさんを見れば、色々な感情が混じった瞳で睨んでくる。口を開こうとした瞬間、首を絞められる感覚に目の前の人物を見ればフェイタンさん。
だけどクロロが何かを言った後、首に与えられた衝撃で視界が暗くなっていく。
最後に見たのはクロロの悲しそうな表情だった。


(私は、あなたにそんな表情をしてもらいたかったわけじゃないんだ…。)


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