白兎と冷酷人間

□臆病者同士の言い合い
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いつだったか忘れた。いや、忘れるほど沢山殺めてきて忘れた。


「どうして本気を出さないんだ?」


何時もように戦地に駆り出されたけど、あの時はただの虐殺に近かった。無抵抗に近い者達を逃げ惑う者達をただ葬るだけ。気絶なんかで終わらせたら後が怖くて、ただ能動的に殺しをした。


『……本気…?』


そして今、目の前の男の首を跳ねようとした時にそう聞かれた。
何故、本気を出さないか…。


「あぁ。何故お前は殺す事ではなく自分に恐れているんだ?」

『…恐れ…。』


なら何故こいつは今から殺されるのにそんな穏やかな表情をしているのだ。聞けば、自分の愛する者の居る場所へ行けるから。…あぁ馬鹿馬鹿しい。


『自分の血が、夜兎の血が怖いの…。』

「夜兎と言えば、最強戦闘集団だな。どうりで強いわけだ。」

『私はただのなり損ないだよ。』


夜兎の本能、血が怖くて怯えながらも自分を守る為に殺しをしている。


「なり損ないか…。ただ巨大な力をもった自分に怖がっているせいで、何事にも一線引いてるのか?」

『……あなた何者?』

「俺の能力の一部さ。何事にも怯え、何も出来ない。……可哀想だな、白兎。」

『そう…。じゃあ、さよなら。』


さっきまで話していた男は幸せそうな表情をしている。この人はどんな気持ちで人生を歩んでいたんだろ。私が本気を出すのは何時なんだろう。

(それはたぶん…私が狂う時だ。)













「ワタシと戦ているのに考え事か?」


あ、そうだ、今はフェイタンさんと戦ってるんだ。そして一瞬の隙を許してくれるわけもなく、刀を防いだ私の身体は壁に吹っ飛ばされる。


『ゲホッゲホッ…。容赦ないなぁ…。』


まずこの廃墟、このままだったら壊れるんじゃないか。さっきから遠慮ないフェイタンさんの攻撃で広間は更に瓦礫が増えた気がする。


「お前、やぱりムカつくよ。」

『それっ何回も聞いてますよっ!』


何時もだったら降参してるはずの私だけど、今回はそうはいかない。
何で私はこんなイライラしなきゃいけないんだ。何で私はこんな悲しいんだ。
嫌いって言われたから?そんなのよく言われてたじゃん。
仲間だから?なら仲間での悪態だと思って、笑って済ませればいいじゃん。
今までそうだったし、変えるつもりもない。
でも何でこんなにざわつくんだ。


「あんたら…って何やってんだい!?」

「ルカ!何やってんの!」

『!!マチちゃん…シャルく「余所見か?」!』


本当に容赦がない攻撃。私はただ防ぐか弾くだけ。
(あぁもう!)


「フェイタン!あんたも止めな!!」

「………。」

「フェイタン!」


睨みつける2人にフェイタンさんは舌打ちをしながらも攻撃を止める気はないみたいで、壁にぶつかった私の首を締め上げる。


『グッ…ガハッ…。』

「お前、ワタシを馬鹿にしてるね。何故さきから少しでも攻撃してこないね。」

『そ、れは…。』

「仲間とかぬかすんじゃないよ。ワタシ、弱いやつ嫌いね。」

『そんなの…』


ガッとフェイタンさんの首を掴んでいる腕を握り締め、そして身体を捻らせる。


『知ってますよ…!』


口から滴る血を拭いながら、フェイタンさんを吹っ飛ばした方を睨む。
何でこんな苛つくんだ。


「フェイタンもルカもどうしたんだい!?」

『それは…』

「こいつ負けたらここから消えるね。」


瓦礫の煙が晴れ、少し衣服が破れているフェイタンさんに私の表情が歪む。
(あれは…私が怪我させた傷…)


「消えると言ても、ワタシがこいつ殺すだけの事ね。」

『なんか主旨変わってませんか?』

「うるさいよ。ワタシ、お前のせいで苛ついているね。」


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