ちゃいるど!!

□クロロと私
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パクノダさんから来てから翌日。私はあることに気付いた。まぁ気付いてというよりクロロさんによって気付かされた。


「そういえば名前は何というんだ。」

『へ?』


私はクロロさんの買ってきてくれたサンドイッチを口に入れようとした時、いきなりの質問をもう一度頭の中で巡らせる。
あぁそうだ、彼は名前を私に聞いてきたのだ、名前を。


『…。』

「どうした、答えられないのか?」

『わからない…です…。』


すると静まり返る空間。昔小さい頃にある童謡で名前を聞いてもわからないという歌詞に、迷子なんてレベルじゃないだろ、と鼻で笑った自分をふと思い出す。だがわからないのだ、今まで在ったはずの名前が。これはかなり重症ではないか。
この年になってまさかこんな事態になるとは恥ずかしい…。いや恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない。


「覚えてないのか。」

『は、い…。』


あぁ面倒だと思われてしまったか。もう私なんかあれとかこれ、でいいからと心の中で強く思った。


「ならお前は今日からユナだ。」

『え…?』

「お前の名前だ。名前がないと不便だろう?」


予想なんて遥かに超えた話に、まさに開いた口が塞がらないという状況だ。


『私の…名前…。』

「そう、お前の名前だユナ。」

『ユナ…。』


心の中で何度も呟く。呟けば呟くほど顔が綻んでいくのがわかった。


「気に入らなかったか?」

『いえ…!すごく…嬉しいです…。ユナ…私は今日からユナです!』


珍しく興奮気味で言えば、クロロさんは微かに笑った。足をパタパタ前後に振りながら私は何回も名前を呟く。


「あと俺に敬語は使うな。」

『え…』

「あとさん付けもだ。わかったな?」


確認をとるような言い方だが、その中には命令なように拒否をさせる気は全くない。お互い無言にいたが、私が先に折れた。


『わかった…く、クロロ…。』

「よく出来たなユナ。」


頭を撫でられ恥ずかしい気持ちでいっぱいになるが、距離が縮まった気がして嬉しくなる。


「そういえばユナは読み書きが出来るか?」


その言葉にピシリと固まると、クロロはやはりな、と呟いた。
いや、出来ますよ?でも絶対に私が書ける文字とクロロが聞いている文字は絶対に違う。あのゴミ山の事を思い出せば安易に想像出来る。
するとクロロはスラスラと紙に何か書き始め、その作業をジッとみていると途中で何となく気付いた。


『50音表…。』

「わかるのか?」

『いや、何となく…。』


少し感心したような表情をしたクロロに私は苦笑いで返す。そして書き終わったのか、その表を私に渡してきた。


「今はこれでいいか?」

『うわぁ…ありがとう…!』

「どういたしまして。」


私は夢でも見ているのだろうか。こんな幸せ滅多にない。私が彼に一生返せないであろう恩だろう。ならば彼がどんな人物であろうが関係ないじゃないか。例え、その漫画の中の悪役であろうと、目の前のクロロ=ルシルフという人間は私の恩人なのだから。


「そうだ、午後には少し出掛けるか。」

『うん…!』


なら彼に私は一生付いて行こう。そう心に決めながら、先程の食べかけサンドイッチを口に入れた。


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