無の書庫

□真っ暗な世界から見上げた夜空
1ページ/3ページ

指先が思ったより酷く冷えていて、ほうと自分の息を当ててやるとじんと痺れた。
白く染められた息は瞬間に消え去り、少し切なく思う。
皆は寒いとかお腹が減ったとか愚痴りながらもどこか楽しそうで、疎らな光に照らされながら暗い道を進む。

もう少しで着くからと、皆と同じ…いや、それ以上に目を輝かせて先導を切る彼。
そんな彼等と自分の温度差を強く感じて、このまま静かに立ち止まって消えてしまっていても、誰も気付かないんじゃないんだろうかなんて馬鹿な事を思う。

今だって誰も、僕を見ていない。
僕は一人。
誰かに話し掛けられることもなく、誰かの視界に映ることもなく。
景色と同じような存在にしかなれていない。
あぁ、やだな。

そんな事を考えるのが悪いんだといつも思うのに、一度思ってしまえばそこから抜け出すことは難しくて。

深くなるこの闇に紛れて消えてしまえたら楽なんだろうか。
そんな事思っても実際消えることなんて出来ない癖に、自分か弟か分からない声が鋭く胸を刺す。

きもちが、わるい。

胸の辺りから喉の奥に競り上がる何かを感じて、思わず冷たいままの両手を口に当てた。
こんな行為で気分が良くなる訳じゃないけど、やらないよりはマシだった。
激しく脈打つ胃の辺りをそっと撫でて、落ち着くようにと自分自身を宥める。

「吹雪?」

名を呼ばれて、思わず目を見開いたまま顔を上げた。

「大丈夫か?」

まるで泣きそうな顔をして、僕を心配する彼がそこに居た。

「なんで…」

「なんでって、吹雪の姿が見えなかったからどうしたんだろうって思って…」

落ちてしまいそうだ。
目尻に涙は浮かんでいないのに、頬を落ちてしまいそうな何かが彼の表情に見えた。
人に本気で心配されるという事を全身で感じながら、やはり慣れないと思う僕がいた。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ