無の書庫

□愛しい殺人者
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いつも通りの時間に起床。
眠い目を擦りながら開けたカーテンの向こう、強い陽射しに照らされた景色も既に見慣れたもので、爽やかさは感じるものの真新しい何かがある訳ではないので少し残念な気持ちになる。
何か変わっていないかと言う期待が叶わず軽く溜息をついて、たった今自分が起き上がったばかりのベッドへと視線を戻し近付く。

この変わらぬ日常の中に組み込まれた唯一の非日常。

遮光カーテンに遮られていた陽射しを受け煌めく金色を起こさぬ様指に絡めて実はさらさらとしているその感触を愉しむ。
枕に散らばった毛先までを緩やかに梳いて行くと低音のバスの様な声を小さく漏らして、もう少し眠らせてくれとでも言うように眉が寄せられた。
自分より何回りも大きい身体を持ちながら、幼い子供のそれと変わらない表情を見せる年上の人に思わずくすりと微笑みながら、まだ寝てていいですよと声をかける。
その言葉に安心した彼が薄く開こうとしていた瞼を再び閉じたのを確認して、台所に飲み物でも取りに行こうかとその場から立ち上がった瞬間。
力を入れれば直ぐにすり抜けられそうなほど、力強い見た目と反比例して遠慮がちに指先を掴まれた。

「静雄さん?」

どうしました?
小首を傾げて穏やかな口調で訪ねると、少し拗ねた様な顔をして貴方は。

「お前も、寝ろ」

そして抱き枕になれ、だなんて横柄な物言いがらたどたどしい手つきで僕を引き止めようとする。
その仕種がまた可愛らしくて、ふにゃりと腑抜けた笑みを浮かべながらこちらへと向けられた顔の輪郭を撫でる。



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