通りゃんせ夜話 〜創作戦国〜
□とおりゃんせ夜話 05
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初めは幽鬼だと思った。
行きはよいよい 帰りは怖い、
甘い香りと共に、ほの暗い闇から聞こえる美しけれど不吉な唄。
ただその時、闇ばかりを見詰めていた私には、寧ろ慕わしいものにも思えたのだ。
…ゆえに、声を掛けた。
取り殺すのならばそうするが好い。
その声を聞きながら眠るのならば、それもまた一興だ。
だが薄紙の向こうの異界の者は、意外にも普通のおなごであった。
突然の私の誘いに応じるなど、些か酔狂なところはあったが。
異界ゆえに異なる点は多けれど、その向こうの世界も人間も、さほど変わりはしない。
それに安心し、物珍しい話に面白がり――
――そして恐ろしくなったのは、
その声と香りの甘さにばかりに己の気が向くようになってからだった。
通りゃんせ夜話 05