陰陽のディーオ

□8章 食事の時間に
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ラーグ視点



「へぇー。幽霊じゃなくて精霊だったんだー」

間の抜けた声を隣で聞き、こっちが疲れた。
何せ、コトハが何回も同じ説明をしていたのだ。こっちはすぐ理解したというのに…
たく、このアホが。

「ふぅ…長かったでござる…」

コトハは息を長く吐くと、茶を飲む。
何故かこいつは、茶を飲む姿がしっくりくるんだよな。
…髪、奇抜なのにな。それは失礼か。

「本人に聞けって言ったけど、結局コトハ、説明したのね…」
「その、アデレイド殿に長々説明させるのはどうかと思い……拙者が知っている限りの事は説明させてもらったでござる」

真面目だな、コトハ。
しかし、さっきから隣がうるさい。幽霊じゃなくて精霊、とブツブツ言いやがって。間違えてるしな。
何分前に聞いたんだ、お前は。
歩くと忘れる鳥頭か?

「アックス殿! 後で、謝るでござるよ。アデレイド殿に!」」
「よし! じゃあ、後で見せてもらおう!」

話が噛み合ってないぞ。何、気合い入れてるんだ。謝るの優先しろ。
コトハ、溜め息ついてるな。そうやりたくなるな。

「拙者の役目は果たしたでござる。御馳走様でした。では、これで」

コトハは席を立ち、トレーを持って去ろうとする。
ん?栄養ドリンク、置いたままだぞ?
…うるさいな。いい加減にしてほしいものだ。いい加減、覚えろ。
だから、違うだろ。

「あれ? コトハ、栄養ドリンク忘れてるわよ?」
「! 忘れてたでござる! 忝い!」

フォルテから、栄養ドリンクを受け取るコトハ。
しかし、それ、本当に栄養ドリンクか?
変な薬じゃなければ、いいんだが…。
まだ奴らに警戒を解いたわけじゃないからな。

「改めて、では」

そう言うと、コトハは踵を返し去っていった。その後ろ姿を見送る。
…しかし、やはり、隣がうるさい。何回間違えればいいんだ。
そこは違うと言ってるだろ。

「コトハ、お疲れ〜。ふぅ、しっかし今日は大変だったわね」
「うん。まさか、異界から人が来るなんてね。ビックリしたよ」

…ん?異界?あいつら、そうなのか?
そうか。そういえば、俺とフォルテは何も詳しく聞いてなかったな。

「幽霊じゃなくて精霊……幽霊じゃなくて精霊……精霊じゃなくて幽霊…」
「…今、間違えたぞ」

つい、言ってしまった。隣でずっと言われてると、本当に嫌気がさす。
だが、精霊なんてそうそう聞く言葉じゃないからな。こいつにはいい勉強になったんじゃないか?
本人は良く分かっていないようだが…

「…そうか…」

ボソッと言ったのに、聞こえてたのか。意外に侮れない。
……こいつにも俺達と同じ力が目覚めるのかもしれないな。

「……はは」

リゼルは目の前にいるアックスに視線を送り、苦笑いしている。こっちはもっと大変なんだぞ。
同じ表情のまま、向けるな。
…むしろ貴様が隣になれば良かっただろうが。
フォルテに目を向けると、困ったような笑みを浮かべていた。こっちもか。…どいつもこいつも。
そのフォルテは、ふと何かに気づいてリゼルを見る。

「でも、リゼル。なんであの人達が異界の人って分かったの? オルガさんから聞いたの?」

俺も思った事だな。確かに、あいつら、何も言ってなかったよな?……いや、ただ単に俺とフォルテがその時に聞いてなかっただけかもしれないな。
しかし、リゼルはよく自分達が知らない事を、何でも知っている。
何故だろうか?そういえば、こいつは知らない内に覚醒してたな。本当に、不思議な奴。
リゼルはというと、驚いた顔を一瞬見せその後、目をキョロキョロとさせ始める。
何かを考えているのか、それとも思い出しているのか。
アックス、間違えなくなったな。

「そ、そう! オルガさんから聞いたんだ!」
「…ん? そんなこと、オルガさん言ったっけ? アレスは、移動魔法に失敗したとか言ってたぜ? 魔法陣にふびがあったとか。気付いたら、森の中って。アレスもオルガさんも異界なんて、言ってたかなー? 僕、てっきりこの世界の人かと思ったよ」

アックスはブツブツ言うのを止めると、そう言う。
リゼルの言葉に対して疑問に思ったようだ。聞いてるんだな。魔法陣の不備か。それは大変だったろうな。
しかし、オルガもアレスも言っていない?じゃあ、何でこいつは知っているんだ?

「アックスがいない所で……それか忘れてるだけでしょ!」

少し上ずった声が気になったが……確かにありえるな。
いない所とか忘れてるとか。

「そうだっけ? まぁ、いいんだけどさ……フォルテとラ―グに説明しなきゃね、リゼル」

そうリゼルに言うと、アックスは小声で「絶対言ってないと思うんだけど…後、いない所ってずっと一緒にいたよーな」と呟く。
聞いてるのに何故、アホっぽく……聞いてないような雰囲気をするのか…まぁいい。
しかし、どっちが正しいのか。あの四人は何となくここの住民には見えなかったが。異界の人間か……凄い事になったな。
これから本人達はどうするんだろうか。そこまで、俺が考えなくても言い事なんだが。
悪い奴らではなさそうだしな。
しかし、警戒はするがな。






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