陰陽のディーオ
□7章 それぞれの部屋で
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ギル視点
リゼルさんが先頭で、これからオレ達がお世話になる部屋に案内してくれている。
男女で別の階が割り当てられてるみたいで、女の人の部屋に泊まる先輩だけ、先に分かれた。
アレス君も、アックスの部屋にさっき入って行った。
次は、俺が泊めてもらう、ラーグさんの部屋に向かっているらしい。
けど・・・
どうすればいいんだろう・・・
ここへ来るまでも、並んで歩いているのに・・・他の人たちは、初対面だけどそこそこ言葉交わしたりしてたのに・・・
ラーグさんは、オレに目を向けることさえしない。
ラーグさんの方が背が高いから、オレからじゃ視線を合わせるのすら難しいと言う・・・
どうしようもねぇじゃん。
部屋で二人きりになってからもこうだったらどうしよう・・・
この心配が、杞憂で終わる予感がしないのも恐ろしい。
男部屋は同じ階にあるからか、すぐにラーグさんの前に着いた。
「で、ラ―グの部屋」
リゼルさんが、主にオレに向けて部屋のドアを教えてくれる。
ラ―グさんは、無言でドア開けるだけだ。
・・・これは・・・入れってことでいいのか?
ラーグさんに、確認の意味を込めて目を向けるけど、相変わらず視線はかすりもしない。
不機嫌そうな感じもあったし、さっさと部屋には行っちゃうかと思ったけど、こうしてドアを開けて、自分が入らずに待っているってことは・・・部屋に迎えてくれる気はあるってことでいいんだよな?
あー・・・先輩もアレス君もいねェし。同期の・・・でも年下の朔弥に助け求めんのもなぁ。
たぶんさっきの考えで合ってるんだろうけど・・・
一応、もう一回ラーグさんに視線を向けてみるけど、気付いてないのか無視してんのか知らないけど、やっぱり何の反応も無い。
・・・こうなったら、もう一人のこの施設の人間、リゼルさんに縋る思いで目を向ける。
「入っていいよ」
慣れてんのかな?オレの言いたいことがすぐに分かったみたいだ。
リゼルさんはにこりと笑って、部屋の主のラーグさんの代わりに、入室の許可をくれた。
「お、お邪魔するっす!」
言葉に詰まったのは、この人相手じゃ仕方ないと思って欲しい。
ラーグさんが機嫌を損ねることをしてしまわないように、表情をうかがいながら、部屋の隅々に目を向ける。
挙動不審に映るかもしれねーけど、他人の領域に、一人で入るんだ。最低限の警戒は当たり前だろ。
なんか、馴染みの無い気配もあったりするけど、とりあえず危険な感じはしない、かな。
一通り確認を終わらせたら、ラーグさんを見る。
やっぱ、人の部屋で勝手な事するわけにもいかねーしな。
気にしない人もいるかもしれねーけど、俺の兄貴は部屋に勝手に入ると怒るし、ちゃんと言って入れてもらったときだって、部屋の中の物に勝手に触るのはいい顔をしない。
ま、オレもこの16年で少しは学習したから、そんなミスはもうしないけどさ。
ラーグさんは、どうか知らねーけど・・・ふだんは気にしない人だって、今日初めてあった、どこから来たのかもよくわかんないヤツに、部屋をいいようにされて、いい顔はしないだろ。
「・・・・・・」
無言・・・考え事でもしてんのかな?
・・・この人も、どうしたものかと思ってるかもな。
オレらをここへ案内したアックスとか、代表のオルガさんと一緒に話を聞いてたリゼルさんならともかく、フォルテさんとラーグさんはアックスにいきなり頼まれたんだもんな。
まぁ、ひとまず
「あ、あの・・・なんか、いきなりすみません。」
謝ってみる。
「・・・・・・」
どうしよう・・・なんも言わないで部屋の奥行っちゃったよ。
「なんか、怒ってます?そうっすよね・・・」
ろくな説明もなしに、これじゃあ・・・怒りたくもなるわなー・・・
「そんなとこに突っ立ってるならさっさと座ったらどうだ?邪魔だ」
は?
ラーグさんから初めて応答があった!
大丈夫、理不尽な扱いは慣れてる。末っ子なめんな。
オレは急いでソファに座って、ラーグさんの次の言葉を待つ。
・・・・・・あ、茶ぁ出してくれるんだ。
さっき奥行ったのは、これ用意してたからか。
で、この茶を?
「・・・・・・飲んでいいんすか?」
「・・・・・・」
頷いただけ!!
どんだけしゃべらねーんだよ、この人。
「・・・ありがたく頂戴するっす。」
・・・てか、さっきからずっと、部屋のドア空いたままだし、リゼル廊下からこっち見てんだよなぁ。
何も言わずに。
いるんだったら、見てないで何とか言ってくれよ・・・
初対面のオレに、言葉なしで乗り切れってか!?難易度高すぎるぞこの人。
「ラーグなんかしゃべんなよ。」
オレからの無言の訴えに気付いたのか?
やっとリゼルさんからの言葉が・・・て、声震えてるし。
笑い耐えてるー・・・いや、耐えきれてねー・・・
「あ、気にしなくていいからね。ラーグは喋るの苦手な人なんだ。行動で言う人?そんなの。色々、頭の中で考えちゃうんだよ」
「へ?」
もう最後は普通に笑いながら、そんな情報を教えてくれた。
「余計な事言うな」
あんだけ笑われれば不機嫌にもなるよな。
ラーグさんがリゼルさんを睨みつけるけど、リゼルさんは全然怖くないみたいだ。
よくあるやりとりなんだろうか。
「照れてる照れてる。ま、普通に話して大丈夫だから。じゃあね」
笑いながら、でも最後はオレを安心させるかのように笑顔を向けて、リゼルさんは廊下のドアを閉めた。
そのまま、2人分の足音は遠ざかって行った。
・・・また沈黙かよ。
でも、まぁ。とりあえずは
「・・・・・そうなんすか?」
リゼルさんに頂いた情報の確認をしてみますか?
「・・・・・・」
まぁ、やっぱり・・・てか、今度は頷くこともしないで、お茶を飲むだけだった。
でもまぁ。さっきの様子からして、リゼルさんの言ったことは事実なんだろうな。
・・・今だって、茶ばっかり飲むのは誤魔化したいからって感じするし。
しっかし、
照れ屋で無口・・・か。
悪い人ではないみたいだけど、会話が成り立たないとかキツイなぁ・・・
今からでも、部屋変えてもらえねェかな?
まぁ、今は出してもらった茶を飲むしかないか。
・・・お、けっこううまい。
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