Novel

□恋に恋した運命の人
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 広野瑞紀(ひろのみずき)。
 中2、中3とクラスが一緒だった彼とは、中2の12月半ばからたった4ヶ月だけ付き合っていた。
 『付き合っていた』なんていえば聞こえがいいが、ほとんど何も出来なかった。
『好き』という気持ちすらよく判らないままに交際をしていたような気がする。

 メールだけで、どこに出かけることもなく。本当に何もしなかった。
初めて一緒にでかけることになったコンサートの前夜、『別れよう』ってメールがきたっけ。
チケット代、私が負担してたのにな。一緒に行けることが嬉しくて。

 そんな風に思っていた私も、別れを告げた瑞紀も、ただ、『恋に恋していた』のだと思う。
いや、それは私だけだったのかもしれないな。
彼には私以外に、2人の女の子に心を許していたようだから。
 
 もう結構前のことだし、中学を卒業してから今日までの間に、私の中で瑞紀は消えていっていた。
だから今更思い出すなんて正直びっくり。
 
でも、本当に、瑞紀はどうしているだろう。
 
 通っている高校くらいしか知らない。
風の噂では、『高校デビューじゃないのか』というくらいイメチェンしたとか。

 なんて、思いのほか瑞紀のことを考えてしまい、パソコンはとっくに起動していた。

 ブログを書く前にメールを見るのが習慣になっている私は、今日もメールソフトをあける。
 すると、たくさんのメルマガが受信されていく中に、見覚えのないアドレスで、『アド変しました』という件名のメールがある。
 
「……誰?」

 不信に思った私は、かなり迷ったが、そのメールを開けてみることにした。
 指でパソコンのコントロールパネル(正式名は知らないけれど)に触れる。
『とん』というしなやかな音と同時に、ぱっとメールが開いた。

中身を見た瞬間、無意識に息をのんだ。

 「え……」
 
 開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
メールの中身は

『広野みずきです。アドレス変わったんで、登録お願いします!!』

と、いたってシンプルなアド変の連絡。
 
 でも、私にとっては全くシンプルなメールなんかではない。
広野みずきと聞いて彼以外に当てはまる人はいないから。
数秒前まで考えていたけど、1年近く連絡をとっていなかった元彼からのメール。
それもつい2分前に届いたばかりだなんて。

 思わず、慌てて返事を書く。とりあえずは、登録の報告。
あっという間に返事が来る。瑞紀は携帯得意だもんなぁ。
(勉強は全くといっていいほどダメだったっけ)
 
 『携帯持ってる?携帯でメールしたいな♪ 電話番号も教えて?』
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