■きつねの短編小説集

□†お揚げ嫌いなお稲荷さん†
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おあげ。オアゲ。お揚げ。

なんて嫌な響きなのだろう。

私はとある神社の稲荷狐。

今日も朝から参拝客たちを境内から見下ろしている。

ふっ…いい眺めだ。

和尚。掃き掃除はぬかりなくやっておけよ。汚い神社だと参拝客からお賽銭をもらえなくなるからな。

Σあ!こら!そこの子ども!噛み終わったガムを賽銭箱に入れるな!

…まったく。最近の子どもは…(ブツブツ

それにしても…世の中の人間たちは、どうも狐がお揚げを好きだと勘違いしているらしくて困る…

私はあの茶色くて、四角くて(あるいは三角)、そしてテカテカとあぶらぎったあの姿がたまらなく嫌なのだ。

う…思いだすと吐き気が…

ゴトゴト…(稲荷像がかすかにゆれる)

失敬失敬仮にも稲荷狐ともあろうものが危うく下を出すところであった!

気をつけねば…!



ゴホン!


ふむ。えーところでそなたは私のことをどれだけ知っておるのかな?


ふむふむ…。『知るわけない!』とな。




…当たり前であるぞよ?私とそなたは今が初対面だからな。

まずは友達同士から始めようではないか。



………




といいたいところだが、そなたと私とではそもそも住む次元が違うのだ。


どーだ?恐れ入ったであろう?



………




なに?『ただの石のくせに生意気だ』とな!?

失敬なっ!私はただの石ではなくて『稲荷狐の像』だ!

間違わないでもらいたものだ…ってなにをする貴様!!

(作業服を着たオジサンが稲荷狐の像を持ち上げて軽トラにのせる)

おい!このバチあたりめが!私はこう見えても重要文化財なのだぞ!?

おい!和尚!私に向かって手を合わせている場合ではない!はやく助け…


ブオーン…(軽トラ走り去る)



チーン…


※そしてその日のニュース

『えー以前稲荷寺にある重要文化財、稲荷狐の像の中に、白面金毛九尾狐の像が隠されていたという報道をいたしましたが、本日その取りだし作業のため、稲荷寺へ市の関係者が向かい、輸送作業にあたりました。えー現在入れ物であった稲荷狐の像は取りだし作業の際にバラバラになり…』


おわり
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