■きつねの短編小説集
□†ほっそり目玉のウソつききつね†
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ある森の中に、一匹の嫌われ者の狐がいました。
狐はウソつきで、他の動物たちの悪口ばかりを言っていたので『ほっそり目玉のウソつき狐』と呼ばれ、いつもバカにされていました。
だから狐はいつも一匹です。
ごはんを食べるときも、寝るときも、遊ぶときもです。
でも狐は一匹でいるほうがかえって気が楽なのでした。
ある日、狐がいつものように小川で水を飲んでいると、なんだか嫌な匂いがしてきました。
狼の匂いです。
狐は狼が大嫌いでした。
いつも大勢で群れていて、何かにつけてはうるさく吠えるからです。
夜中に一斉に遠吠えをされたときは、寝不足になってしまったこともありました。
狐は早く水を飲んで帰ろうと、森に向かって歩き出しました。
その時です。後ろからがさがさと音がしました。
はっとして狐が振り返ると、一匹の狼が、よろよろと茂みの中から出てきました。
よくみるとひどいケガをしているようです。
狼は小川まで近づくと、どさりと倒れこんでしまいました。
そのようすを見て、狐はどうしようか迷いましたが、小川を渡って狼の首をくわえると、自分の巣穴まで引きずって行きました。
さて、狼を巣穴に連れてきてから、狐はなんでこんなことをしたのだろうと考えました。
狐は狼が大嫌いです。でもケガをして倒れている狼を見て、そこから離れようとする自分の心が、なんだかトゲを刺されたみたいにちくちく痛んで仕方がなかったのです。
それから狐は狼が起きてからのことを考えました。
乱暴な狼は自分を見て一体なんというんだろう。
やっぱり皆と同じように、『ほっそり目玉のウソつき狐』っていうのかな。
いや、それともこの牙のたくさんはえた口でがぶりとかみついてくるかもしれない。
狐は考えているうちに、狼をここに残して出ていってしまおうと思いました。
そうして狐が巣穴から出ようとしたとき、後ろから狼がうーんとうなりました。
振り返ると、狼は青い目を狐の方に向けていました。
狼と目が合って、狐はその場で動けなくなってしまいました。
そんな狐の様子を見て、狼はこう言いました。
『君が私を助けてくれたのかい?ありがとう』
狐は細い目をまん丸くして驚きました。
なぜならそんなことを言われるなんて思ってもみなかったからです。